我がらの新宮弁講座④~「うとすけ」と「ごくとれ」

我がらの新宮弁講座4「うとすけ」と「ごくとれ」

[うとすけ] うとい人。ばかな奴。あほな輩。(熊辞苑)
[ごくとれ] 極道者。悪い奴。超「うとすけ」(熊辞郎)

さて、新宮弁講座も熊野の都・新宮から、ややずれてきた感があります。そやけど「お気に入りの熊野の言葉」を求めて、どこへ行くかわからんけど、ま、流されていくか。オラオラ、そぃそぃ。(誰なぃ?。初めからズレたぁる言やるのは!)

熊野には「山の熊野」と「海の熊野」があるとか。「うとすけ」と「ごくとれ」は「山の熊野」方面でよう聞く言葉やと思うんやけど、誰そ、詳しいこと知らんやろか。知ったぁたら、当コーナーまでご一報下さい。

「うとすけ」はよく耳にしましたが「ごくとれ」は、ごくまれにしか聞きませんでした。熊野語のなかでは「絶滅種」に近く、新宮弁講師としては保護の必要があると考えます。初めてこの言葉を聞いた時は、子供ごころに「おもしろい言葉」と思ったのを憶えています。「ごくとれ」とは「極道連」と書くのかな、と勝手に考えていたくらいで、まさにそんな意味です。

昔、といってもほんの3~40年前。山の熊野ではネコは言うに及ばず、犬も放し飼いがあたり前でした。彼らは飼い主でさえ考えつかない場所にまで、本能のままに自由気ままに、それはそれはうろつきました。たった一匹で山に入り、イノシシを追い出してきた犬もありました。名前はタロ。「ニシノボのタロ」です。ネコも負けじと谷を越え、1キロ先の田んぼのあぜあたりで遊んでいました。

そんな愛犬やネコを見つけた時、飼い主はこう言いました。「アッ、うちのごくとれゃ、こんなとこまで来くさって。うといヤツ・・・」。怒っているのか、心配しているのか。そう言って黙り込む老人からは、きざみタバコの匂いが漂ってくるのでありました。椿や茶の葉っぱで巻いたヤツを吸っている時は、また一入(ひとしお)。
このようにして「山の熊野」の一日は暮れていきます。

「うといたって、何たって、どだいうとすけ」。つまり、おまえは思いっきり馬鹿や、という意味です。月に一度はオヤジの口からこのセリフが出てました。熊野には、うとすけが多いようです。

「ごくとれ」のタロはいつまでも「ごくとれ」を止めず、最期はとうとうシシの牙に倒れました。飼い主の必死の看護も空しく、お腹にいっぱいウミをためて死んでいきました。正しい戦死でした。タロも立派、タロを葬ったシシも立派。熊野の野生の壮絶な闘いでした。泣けてくるデ。

野生のタロに捧げましょう。「タロのうとすけーーー!!」。

次回は「新宮弁の基本構造」についての考察と、「大阪弁に近づいたらアカン」をお送りします。

講師:城かず坊

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