コッツウォルズ紀行㉞~ハーブとシェークスピア

1999年に、自ら企画、実行したイギリス自由旅行記「コッツウォルズの歩き方」を掲載しましたが、実はこの旅行についてのいくつかのエピソードや感想があります。随分と昔の話で恐縮ですが、書きためたものをいくつか紹介しています。
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シェークスピアの生家を訪れたとき、その庭には彼の作品に登場する様々なハーブが植えられていることを知った。特にシェークスピアのファンという訳でもない私にとって、ハーブとシェークスピアとの結びつきに今まで気づくわけもなく、この事実を知ったときの感動はいささか大きいものがあった。作品に登場するハーブは、ラベンダーやローズマリーなどいわゆるハーブは勿論のこと、各種の花、野草、野菜、果物、スパイス、樹木、コケ、キノコ、穀類に至るまで180種類ほどになる。それらは皆、当時英国で出版されたハーバル(植物誌)に載っているものである。

たとえば、「ハムレット」で正気を失ったオフィーリアが王や王妃の前に出てくるシーンでは、彼女が皆に手渡すローズマリーやフェンネルの香りや象徴性が、彼女の思いを鮮やかに伝える。また、ロミオとジュリエットで、ジュリエットが仮死状態になる薬を飲んで倒れた直後、別室にいる母や乳母の対話に出てくるマルメロ(婚礼のご馳走用)は、大人たちの」身勝手なお祝い気分をいやが上にも香らせている。

シェークスピアの作品の多くは原作があるのだが、登場するハーブは殆どすべてシェークスピアが付け加えたものである。その場合、各々のハーブの色や効能や象徴性、そして特に香りを意識していると思われることが多い。また、ドラマの舞台がどこの国であれ、時代がいつであれ、シェークスピアは自ら親しんだ同時代の英国のハーブをドラマに取り入れることにより、当時の観客にとってより身近なものとなった。

◆ラベンダー(Lavender)

高さは約1mになり生長するにしたがって茎がねじれ木化する。葉は細く、夏に赤みがかったふじ色の花が咲く。生命力は強く他のハーブが2、3年で弱るのに対し寿命が長い。現在は食用と考えられていないが、葉は肉などの臭みを抜くのによい。数多い品種の中で、一般的に香りのよい精油がとれるのはイングリッシュラベンダーが有名。花から取る油がいちばん上質である。薬効:ラベンダーから抽出される油にはいずれも強い防腐性が含まれておりケガの消毒、虫さされに効果がある。また頭痛薬としては古代からの言い伝えがあり、ラベンダー油などをこめかみに塗布すると頭痛が治まるという。これは、こく薄い浸出液などにして内服してもよいといわれている。多量に服用すると眠気を催すこともあるので要注意。強い香りは防虫剤にもなるので、ポプリとして使われる。

◆ローズマリー(Rosemary)

(マンネンソウ)ラベンダーと同じ科で、ねじれた木質の茎をもち生長すると1.8mほどになる常緑樹である。「Rosmarinus(海のしずく)」といわれるように海の色の青い花を咲かせる。利用法:香りは強く、料理ではマリナード、シチュー、匂いの強い鳥獣肉などに使うとよい。またエール酒の香辛料として最もポピュラーなハーブである。薬効:神経を安定させ、消化機能を助け、心臓と頭脳の働きを強化する作用があるので、他のおだやかなハーブを取り混ぜてハーブテイーにするとよい。また浸出液を頭髪にリンスとして用いると、毛根に刺激を与え、養毛剤になる。また防腐剤としての作用もある。

◆フェンネル(Fennel)

(ウイキョウ)葉は長く、細かく切れ込んでいる。。夏になると大きな黄色い花をつける。花、種子、茎など全草利用できるハーブ。ヨーローッパでは「魚のハーブ」とも呼ばれ,魚の臭みを消すために利用される。一般に、フェンネルにはフローレンスフェンネルといって株元が大きくなるものと、スイートフェンネルという株の大きくならない多年草のフェンネルがある。またブロンズフェンネルといって青銅色のユニークな品種もある。利用法:魚料理のほかにパンや菓子に種子を焼き込んだりピクルスに漬け込む。フローレンスフェンネルはスイートフェンネルに比べ甘い味がする。薬効:胃腸の消化を助ける。またやせるハーブとしても知られる。

◆マルメロ

ジュリエットの結婚式の準備をするキャピレット夫人と乳母の会話に出てくる。ジュリエットの悲嘆をよそに、浮き立つ大人たちの気分にぴったりの甘美な香りの果物。多産・結婚をあらわすが失望や誘惑をあらわすこともある。

コッツウォルズ紀行㉞~ハーブとシェークスピア” に対して1件のコメントがあります。

  1. sophia より:

    シェークスピアの作品にハーブ類等植物が180種類もあるとは知りませんでした。
    私がハーブという言葉を知ったのは、中川牧三先生が風邪予防と仰ってカモミールティを飲んでおられたときでした。当時の日本にはサプリという言葉はおろかハーブという言葉もありませんでした。日本の民間薬としてのヨモギや桑・ユキノシタ位の名前は知っていましたが、それらを試したことも試そうと思ったこともありませんでした。
    中川先生は一年の内半年はヨーロッパで過ごされていて、その地の食べ物を食べて過ごさないと外国のご友人方と真の親友にはなれないと仰り、日本人の場合醤油関係は厳禁と言われていたほどなので、当然風邪予防には日本でもカモミールティを飲まれていました。
    ゛先生、何か訳のわからない気味の悪いものを薬がわりに飲んでおられる”と思い、例によってしつこく質問攻めにして教えていただきました。
    その時に初めてハーブという言葉を知りました。そしてそれは西洋では食用・薬用・化粧用、等・・・・いまだに化粧水(夏用・冬用)・ヘアートニック(育ではなく生毛剤)は自家製のものを使っています・・・・ハーブは人々の生活にとけこんで人々の生活そのものだったといえるのでしょう。シェークスピアは劇中の歴史観等も、観客の知識を前提に脚本を作るのです。作品の内容は書かれている内容と観客が理解する内容が異なることもありえたはずです。
    ハーブもそういう利用のされかたをしていたとは・・・有難うございました。

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