プロカメラマンの秘密を探る⑭~トリミング
講演会で野村さんから、この写真の説明を聞いたとき、二つの意味で驚いた。まずひとつは、このスカイツリーの写真はハイムの自分の部屋から撮ったという事実。二つ目は、元の写真のかなりの部分をトリミングしたということだ。
考えてみれば、あの富士山でも撮影できるのだから、都内のスカイツリーが撮れて何の不思議もない。しかし、自分の部屋からまさかスカイツリーを撮ろうという発想は生まれてこない。これは、「自分の部屋からいったい何が撮れるのだろう」と考えたことのある者だけができることだと思う。
筆者は日頃、アマチュアながらホームページ制作に携わっている関係で、写真やイラストのトリミングという作業には少々馴染みがある。しかし、野村さんから「トリミング」という言葉を聞くとは正直思わなかった。無知を恥じることになるが、考えてみれば当たり前のことで、プロの写真家こそが画面の構成に敏感なのは疑う余地のないことである。
トリミングの仕方について深く考えたことはないが、野村さんはこの写真で何を訴えたかったのだろう。この写真の場合、トリミングのポイントは、タワーの上の部分をどれくらいにするかだと思う。見ると、タワーとほぼ同じ長さの空を残していることが見て取れる。空に向かってすくっと聳えるタワーが示しているのは、はたして「威厳」なのだろうか、それとも「誇り」なのだろうか。
細長いものを見た場合、人の目は普通、線に沿って視線が動く。一方の先端からもうひとつの先端へ。そしてその先には何があるのだろうかと確かめる。この写真の場合、視線はタワーの足元から次第に先端へと流れ、さらに上空に向かっていくだろう。このとき先端から上空の空の部分の長短で印象は大きく変わったものになる。
つまり、タワーが上に伸びた先の空の部分を長くとっていることが、主役であるタワーをより際立たせている。このトリミング技術によって見る人の感情を揺さぶり、作品の価値をワンランク上げていると思う。勿論、横長構図で撮ったものなら特に、不要な左右の部分を大きくカットすることは言うまでもない。因みに今回見せていただいた多くの写真の中ででトリミングしたと聞いたのはこの一枚だけである。
~つづく~
(八咫烏)