高尾山体験記(8)飯縄権現

高尾山の信仰の中心である飯縄権現(いづなごんげん)は、高尾山薬王院の御本尊であり、日本の山岳信仰と修験道が融合した、極めて特徴的な神仏習合の神である。

飯縄権現の概要と起源
1. 神仏習合の神
  飯縄権現は、仏教(特に密教)の要素と、日本の土着の山岳信仰が融合して生まれた「権現」である。「権現」とは、本地垂迹(ほんじすいじゃく)思想に基づき、仏や菩薩が衆生を救うために「仮の姿(権=仮)」として日本の神の姿で「現れた(現)」ことを意味する。

2. 起源:信濃国の飯縄山
  飯縄権現信仰は、もともと信濃国(現在の長野県)の飯縄山(いいづなやま)に対する山岳信仰から発祥したと考えられている。

3. 高尾山への勧請
高尾山薬王院では、中興の祖である俊源大徳(しゅんげんだいとく)が、永和年間(1375年〜1379年)に入山し、修行の末に飯縄権現の霊感を感得し、これを中興本尊として祀ったのが始まり。これにより、高尾山は飯縄権現信仰の重要な霊場として発展した。

​飯縄権現の独特な姿と五相合体(五体合相)
飯縄権現の最大の特徴は、複数の仏や神の徳(ご利益)を一身に集めた五相合体(五体合相)という独特な姿である。

1. 一般的な御姿
飯縄権現の姿は、多くの場合、白狐に乗った烏天狗(からすてんぐ)の姿で表されます。烏天狗は、剣と索(さく:縄)を持っているのが一般的。

  • 烏天狗: 修験者や山伏の姿が空想上の天狗と結びついたもの。自在に空を飛び、煩悩を断ち切る力強さを象徴している。
  • 白狐: 稲荷信仰と結びつき、先を見通す知恵や福徳を象徴している。
  • 剣と索: 煩悩を断ち、衆生を救済する道具。

​2. 五相合体の本地(五つの仏神)
  高尾山薬王院の飯縄大権現は、以下の五つの仏神の徳を併せ持つとされている。

  1. 不動明王(ふどうみょうおう)
    • 役割: 諸悪を根絶し、煩悩を断ち切る、飯縄権現の本地仏。
  2. 迦楼羅天(かるらてん)
    • 役割: 衆生の煩悩(三毒)を喰らい尽くし、病除、延命の功徳がある。烏天狗の姿と結びつくとされる。
  3. 荼吉尼天(だきにてん)
    • 役割: 白狐に乗る神として、福徳、開運出世、病気平癒のご利益を授ける。
  4. 歓喜天(かんぎてん)
    • 役割: 夫婦和合、富貴、願望成就の功徳を施す。
  5. 宇賀神(うがじん)と弁財天(べんざいてん)
    • 役割: 宇賀神は五穀豊穣、弁財天は智慧・財宝・芸術の女神で、商売繁盛や福寿円満のご利益を授ける。

​これらの多岐にわたるご利益を一身に集めているため、飯縄権現は諸願成就の仏神として広く信仰されている。

信仰の広がりとご利益
​1. 戦勝の神として
  飯縄権現は、その力強い姿から戦勝の神として中世の武将たちから厚く信仰されました。特に、上杉謙信が兜の前立に飯縄権現像を用いていたことは非常に有名。他にも、武田信玄や北条氏などの有力武将も信仰していた。

​2. 高尾山薬王院での位置づけ

  • ​御本社(飯縄権現堂): 高尾山薬王院の山頂近くにある豪華絢爛な建物(本社)は、この飯縄大権現を祀るために建てられたもの。
  • ​二本尊体制: 薬王院は、開山の薬師如来と、中興の飯縄大権現を二本尊として奉安しており、特に飯縄大権現を信仰の中心としている。

​飯縄権現は、高尾山の修験道の歴史と、日本の神仏習合の深いつながりを象徴する、非常に重要な存在である。

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