プロカメラマンの秘密を探る⑨~次の一枚!

一目見てそれと分かる写真もあれば、説明を聞いて初めてその写真の意味が分かるというものもある。この写真は、かつて多摩川に渡されていた送電線にカワウが止まっている写真である。送電線は既に撤去済みで今はもうない。この「プロカメラマンの秘密を探る」シリーズの第5回「集合の美」で紹介したものだ。

さて、次にもう一枚の写真を見ていただきたい。同じように送電線にカワウが止まっている写真だが、ご覧のように背景が全く違う。前回は、青空が背景だったのに対して今回はまん丸い夕日になっている。同じカワウの群れの写真なのに180度印象の違う写真になっている。

今回この写真を取り上げた理由は、プロのカメラマンというものは、狙った一枚を手に入れてひとつの目的を達成しただけでは終わらない人種だということだ。2枚とも野村さんの手によるものだが、彼は、1枚目の写真を撮った時に、はたして2枚目を撮ることを想定していたのだろうか。

全くの想像だが、私はこう思う。最初の一枚を撮る前までは2枚目のことは頭になかったのではないか。1枚目は偶然ものにしたものかもしれないが、「よし、いいものが撮れた!」と自分で納得した瞬間に、「次は夕日をバックにでも撮ればもう一枚面白い写真が撮れそうだ!」と漠然と思ったに違いない。

そして、その日は別の風景を何枚か撮って帰り、日を改めて、今度は夕日を意識して現場に向かったような気がする。天気のこともあるので翌日かどうかはわからないが、おそらくあまり日を置かずに再び現場に行っただろう。しかも今度は最初から「夕日をバックにしてカワウの群れを撮る」というはっきりとした目的を持って。

自分自身に立ち返って考えてみる。自分のした仕事に納得できたときは、次もいい仕事をしようとは思う。しかし、もし、私がこの写真を撮影していたとしたら最初の1枚に大満足して、”背景を変えて” もう一枚という発想はでてこない。こうしてプロカメラマンは次々と良い作品を生み出していく。このあたりがプロの神髄なのかもしれない。
(八咫烏)
~つづく~

プロカメラマンの秘密を探る⑨~次の一枚!” に対して2件のコメントがあります。

  1. STREAM より:

    最近は『ハイムのひろば』を毎日訪問していますが、記事の中で特に楽しみにしているのは、この「プロカメラマンの秘密を探る」シリーズです。

    カメラマンの野村成次さんを招いての講演会に参加して、「さすがプロの写真は全然違う」と感動したのは、たしか6月の初め頃でした。あれからもう2か月近くが経過して、正直なところ、感動の記憶がしだいに薄れつつありました。

    しかしこのシリーズのおかげで、スライドで映し出された素晴らしい写真や、野村さんの軽妙なおしゃべりが鮮やかに脳裏に蘇ってきます。さらに、八咫烏さんが新たな視点や考察を加えて投稿しておられることで、シリーズが魅力のある格別なものになっていると感じています。

    「一粒で二度美味しい」というキャッチコピーがありますが、このシリーズは、もはやそのレベルを超えていると思います。

    1枚の写真をベースに、あるときは「旧約聖書創世記」、「画家のレンブラント」、あるいは「上下対称シンメトリー」や「龍安寺の石庭」の話など、自由自在に飛躍して展開するストーリーには、毎回魅了されています。

    なお今回は最後のところで、「~つづく(かな?)~」と結んでおられましたね。このシリーズの熱心なファンとしては、何か含みがあるようでやや気になっています。

    1. yatagarasu より:

      STREAMさん、コメントありがとうございます。また、楽しんでいただけて光栄に思います。

      私自身、あの講演には、こんな世界があるんだとほんとうに感動しました。その時の感動を一時的なものだけで終わらせてしまうことが惜しくなったのがこのシリーズを始めた理由でした。

      ご本人に負担がかからないようにとお聞きしたことをベースに何とか感想を書き綴ってきましたが、そろそろネタも尽きてきたかと思っていたところにこのコメントを頂戴した次第です。

      今回のコメントは、有難く激励と受け止めて、数だけこなしても内容が薄くなっては無意味と戒めながら、もう少しだけ頑張ってみたいと思います。

      八咫烏

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