すり合わせ技法とは、船大工が木材同士を密着させ、水漏れを防ぐために用いた独特の接合技術です。鋸を「切るため」ではなく「擦り合わせるため」に使うのが最大の特徴。

技法の概要
– 目的:板と板の接合面を極限まで密着させ、水密性を高めるための技術。
– 方法:鋸を使って板の接合面を擦り合わせ、微細な凹凸を消してぴったり合わせる。
– 防水性:仕上げ後に「木殺し」と呼ばれる工程で接合面を叩き締めると、水に浸かった際に木が膨張してさらに密着し、水漏れを防ぐ。

🪚 使用する鋸と工程
– 工程は3段階
1. 中目(ちゅうめ)鋸:目の粗い鋸で大まかに擦り合わせる。
2. 小歯(こば)や十三目鋸:より細かい目で精度を上げる。
3. 十六目鋸:最も細かい目で仕上げ、滑らかな接合面を作る。

– 鋸の特徴:通常の切断用ではなく「すりのこ」と呼ばれる専用鋸を使用。歯の細かさや角度を変えながら段階的に仕上げる。

🌊 船大工技術との関係
– 和船建造の核心技術:すり合わせは、和船の板材接合に欠かせない技術で、地域ごとに工夫が加えられた。
– 補助技法:木殺し(接合面を叩いて木を潰す)、木栓や漆の利用などと組み合わせて水密性をさらに高めた。
– 文化的意義:単なる防水技術ではなく、木材の性質を熟知した船大工の経験と感覚に基づく「匠の技」として伝承されてきた。

✨ 伊勢神宮宇治橋との関わり
宇治橋の架け替えでも、このすり合わせ技法が活用されます。橋板や欄干を隙間なく組み合わせることで、強度と耐久性を確保し、五十鈴川の湿潤環境でも長期間安定した構造を保つことができます。つまり、船を水に浮かせる技術が橋を川に架ける技術へと応用されているのです。

 

すり合わせの基本工程
板と板の接合部から水が浸入しないようにするための和船特有の工法で、船体の耐久性を左右する。

使用する道具  
  – 「中目(ちゅうめ)」 :目の粗いノコギリで最初に荒削り  
  – 「こば」や「13目」 :中間仕上げ用のノコギリ  
  – 「16目」      :目の細かいノコギリで最終仕上げ  
  → 目の粗いものから細かいものへと段階的に使い分ける。
作業方法  
  1. 板同士を仮に合わせ、わずかな隙間を残す  
  2. ノコギリを引いて接合面を擦り合わせ、曲がりや凹凸を整える  
  3. 板のカーブや形状を完全に一致させる  
木殺し(きごろし)
– すり合わせ後、接合面を金槌で叩いて圧縮する工程。  
– 船が水に浸かると木が膨張し、板同士がより密着して水漏れを防ぐ。  
– 木の復元力を利用した、自然素材ならではの知恵。
地域的なバリエーション
– 瀬戸内・関東以西:棚板造りの船で広く用いられる技法。  
– 日本海沿岸(富山など):すり合わせに加え、木製カスガイ(チキリ)、木栓タタラ、漆を接着剤として使用する独自の工法も発展。  
– 地域ごとに工夫があり、すり合わせは共通基盤として存在。
技法の意義
– 水密性の確保:釘や接着剤に頼らず、木材の性質を活かす。  
– 職人技の象徴:板の曲線を完全に一致させるには高度な経験と感覚が必要。  
– 持続可能性   :自然素材を活かし、修理や再利用が可能。  
すり合わせは単なる接合技術ではなく、木の呼吸や復元力を計算に入れた「生きた工法」である。船大工は木の性質を熟知し、道具を使い分けながら板を一体化させていきた。まさに日本の伝統的造船技術の核心と言える。