我がらの新宮弁講座⑲~ 「熊野昔ばなし」

私たちが、小さい頃から何の疑問も持たずに使ってきた「新宮弁」。成長して都会に出ていった皆さんは、その土地で使われている言葉と故郷・新宮の言葉との違いについてどのように思われたでしょうか?そして、その後、故郷の旧友に会ったり、帰省したときなどにふとついて出る新宮弁。あなたは新宮弁をどう思いますか?

万人が認める新宮弁の達人にして新宮弁研究の第一人者・城かず坊先生が、新宮弁の深淵に迫ります。それでは、よろしくお願いいたします。(編集長・八咫烏)
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♪坊や~ ええ子や ねんねしな~♪♪

ここは熊野の山里。眼下には雄大な熊野川の蛇行が望める。

ウメはきょうも一日 山の畑でおばあちゃんのお手伝い。

婆や「ウメ もうおこら(やめよう) 日ゃ 暮れてくるド」

ウメ「は~い」

婆や「ばんごしらえ(夕食の支度) せんならんし・・」

ウメ「おかいさん(おかゆのこと)やったら 作るけど・・」

婆や「ウメはおりこうやのー ほいだら たきつけ(火をおこす材料)によどら(細い木の枝など)なと、拾てこか?」

ウメ「うん」

婆や「ウメ さき 立ってあいべ(先を歩いて行きなさい) ころぶなヨ!」

と 言ってる間もなくおばあさんがスッテンコロリン!!

ウメ「おかしいヨ 人にころぶな言やったくせに ハハッ」

婆や「やれヨー おかしぞよ ところでウメ 天気ゃ くだりそうやね(天気が悪くなること)」

家に着くと おじいさんが木を挽いていました

爺や「しっちこ しっちこ・・!」

ウメ「なんでシッチコ シッチコ言うん?」

爺や「さぁ 知らんけど そういうんじゃ・・」

そこへ おばあさんが声をかけました

婆や「じいさん せぎ 行かんのかい・・?」

せぎ=川の瀬のカタ(瀬のちょい川上)に築く落ち鮎を獲る仕掛け。両岸いっぱいに竹や木のくいなどを用い、への字形に作る。広い川だとヤナより大がかりな仕掛けとなる。熊野独特のものか。夏の「ふちあみ(火振り漁)」、台風などで増水時の「なでばり(ころがし漁)」などと並ぶ勇壮且つ、風情漂う漁法。晩秋の朝もや沸き立つ水面に佇めば、そこは枯れた水墨画のさびの世界。夕暮れもまたおかし。

爺や「お、そうじゃねゃ。ど、まじみ(夕刻の鮎がよく獲れる時間帯のこと。早朝は朝まじみという)でも行ってこーか ウメ 待ちやれヨ! アイ(鮎)獲ってきたるさか」

ウメ「うん 大きいの、の!」(と念を押す)

善兵衛じいさんは こたか(超長方形の網・タテ80cmヨコ8mくらい)を持ってセギに出かけました 今日も尺鮎(30cmクラス)がたくさんとれました。

おきあみ(落ち鮎を獲る漁法・夕方仕掛けて早朝上げに行く)を仕掛け終えて善兵衛じいさんがいなくなった後に現れたのは ごくとれ(どもならん奴)の権太ジジィ

権太「善兵衛の野郎らに アイ獲らしたるもんか! こーしたるワイ!!」

と言って 善兵衛じいさんが仕掛けた網を 川原近くへ勝手に置き換えてしまいました おやおや 乱暴な権太「アバ(網を浮かせる木の部分)も 高(たこ)したての・・ イヒヒッ! これで一匹もとれんわ! ワッハッハ!!」

自分の網はいい場所に仕掛けます

そんなことを知らない善兵衛じいさんは ウメの作った茶がゆを食べて ぐっすりと寝てしまいました

と その夜 にわかに空がかき曇り 里はざざ降り(どしゃ降り)の雨になりました

川の水も増えました

あくる朝 善兵衛じいさんがあわててせぎに行ってみると

善兵衛「ありゃ 妙じゃねゃ 網ゃ、動(いご)いたーるわい! わしゃ、絶対(でったい)流されてしもた 思た・・?」

見ると 鮎がビッシリかかっています

善兵衛「ゆうべの雨で さばれたんじゃねゃ!」

さばれ=増水や風の強い時に、鮎が産卵のため普段にも増して下流に下ろうと動く(騒ぐ)こと。大漁となる。さばれると、鮎は興奮して人をも恐れずいつもより大きな群れを作り、せぎにどし込んでくる。この時ばかりは普段のルールは変更され、網を「投げる人」や鮎を「はずす人」などに分かれて適材が配置され、分業して効率を上げる。獲ったアユはヤマ分けする。

木のかげから 権太が くやしそうに見ていました

権太ジジィの網は 流されてせぎにへばりついておりましたとさ

♪遠いむかしの~ も~の~がた~りぃ~♪♪

次回は「似たもの編」です。

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