荻悦子詩集より~「祖父の庭・十二月」

hane1祖父の庭・十二月

納屋の
広い土間の隅
鳥の羽根が
紙の上にこんもりとある
触らないのよ
訝しげに言う母の声を遮って
一本だけ

つやつやした羽根

赤茶色にさまざまな斑点があって
光の具合で色が変わる
きれいな一本だけ
引き出しの奥にしまっておくの
羽根ペンというのはどうかしら
姉の言葉に全身を染めて
末の子は座りこんでしまう
なかなか決められない
すてきな僕の一本

台所の
古いベンチのクッションにも
新しいカバーが掛けられた
カバーには鳥が刺繍されている
その鳥の羽根は
納屋にあった羽根とよく似ている
微妙にちがう斑点の色や
翠に光る背中の羽根
叔母が丹念に刺した鳥は
いま椅子にもたれ
目を半分閉じて陽を浴びている

やっと決まった僕の一本
男の子は
クッションの刺繍の鳥の背に
選んだ羽根を差してみる
本物の羽根
生きた鳥の羽根
と思ったとたん謎にふれる

あの鳥
囲いから飛び上がり
辛子の束や
乾いた豆を蹴散らして
走り狂った大きな鳥
お祖父さんの家の
裏庭のはずれに
今朝はいた鳥

荻悦子詩集「流体」より

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