荻悦子詩集より~「石塁」

石塁

 

不揃いな石塁は
むかしの人が積んだ
石は日に晒され
草の斜面に
くねくねと連なっている

わたしは俊敏な獣だった
羊の脇を駆け抜け
いつもは石塁をひと飛びで越える
急な斜面を走り
遥か下方の川を目指す
けれどその日は
斜面をずり落ちそうに
石塁に寄って
草に伏した

そろそろだよ
あのひとの声が
背骨に沿って滑って行った
そうなのだとかすかに思い
身を縮めて
わたしは

一匹
子を産んだ
黒とグレー
繊細な縞に毛を染め分けて
前足
後ろ足
美しかったと
獣であった自分の肢体ばかり覚えていて
産んだ子の感触はまるでない

石塁の
はみ出た石に足をかけて
羊が一匹
わたしの方を見ている

荻悦子詩集~「流体」より

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