荻悦子詩集より~「終わりの空」

終わりの空

丸い錫の写真立てに
入れておくのは
他人の冬
夢と呼ぶな
幻とも
なつかしい
なかった聖日
ここではない土地の
雪の降る祝日
椅子に上着を掛けたまま
人はわけもなく人を呼んで
なごりの空を眺めに立った
裸木の林の上に
層を成して
にじむ黄色と
浅い水色
暗い雲の帯が
逃げるように掠る
終わりの空は
妖しい明るさ

夕日は
沈みながら
裸木の林をすかして
窓辺を照らし
台所の隅の
古い木のワゴンが
沈んだ赤さで浮かび上がる
香料の壺と
玉葱
こわばった青菜
林に枯れ落ちた枝は
火の幻影に優しく燃やされ
悔恨と
甘い思いが焦げている

裸木の幹をひそかに昇る若い水
その水音も聞き分けて
私たちは
疵だらけのワゴンの前に戻って来る
羽根のない雛鶏の
皮膚の手ざわりを恐れながら
腹の空洞には
たっぷりと
香草や果実を詰め込む
聖日と言い
正餐をくぐれば
空もまた

荻悦子詩集「流体」より

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