荻悦子詩集から~「ラベンダーが咲く斜面」

ラベンダーが咲く斜面

ラベンダーが咲き
花の色が広がって行く
草地から突き出た岩が
いたる所で花を阻もうとするが
ラベンダーの花は斜面を埋めて行く
梨の木が曲がり
桃の木が傾き
切り立った岩だけの稜線が
この向こう側はないと
告げているかに見える斜面を
ラベンダーの花の一色が
どこか白っぽい
希薄な光景に変えてしまう

どこへ帰りたかったのか
葡萄の葉をかすって
斜面の下をのろのろと巡った夏
乾燥させたラベンダーの効能を言う
十四歳のマリーの笑顔
八十歳のアンヌの手
乾燥させた花を枕に詰めて
信じるふりをした
藤紫色のラベンダーの花の斜面を
布のように纏うことにし
細い月と向き合っていると
声には出さないもの憂い声が
夜空の深さに響いてしまい
眠ろうとして
全身の力を抜くのが難しかった

荻悦子詩集~「流体」より

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