荻悦子詩集より~「空の球面」

空の球面

氷河の底が
光を湛えているだろう
碧色に盛り上がり
ねじ曲がる
怒りと呼ぶには
済みすぎた魂

氷河に続く氷の原は
どこまでも平らに見え
人がたったひとり
橇を牽いて歩いて行く
その人がこちらを向き
微笑んでいるらしい不思議

氷の根が密かにきしり
ひたひたと
沈みつつある私たち
ごくゆっくり
ならば甘い
滅びに至るという思い

夜明け近く
球体のこちら側
うす赤く
街の明かりを滲ませて
空の球面が
裸木の林に被さって来る

氷の原を歩く人に
遠くから
手を振りながら
ひとつずつ
微笑みが裏返り
水が膨らむ

荻悦子詩集「流体」より

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