荻悦子詩集より~「冬の市」

冬の市

脂肪が焦げる匂いがする
勢いづいた音が跳ね
オーブンの熱い排気口から
ごく細く青い煙が揺らぎ出る

家の鶏は卵を産むでしょう
肉は固いから
食べたりはしない
そんなさもしいことはしない
でも
そうする所もあるでしょう
さあ
何処ででしょう

ことのわけを
現実としては決して話さない母
昔であっても
今であってもかまわない
本の中の物語のように
朧な十二月
私は
姉であったか母であったか
どちらであっても変わりはない
そう囁く声がして
私の目が
テレビの画像に釘づけになる

日焼けした子供たちが
鶏の喉首をおさえて
無理やり生米を詰め込んでいる
手っ取り早く目方を増やすためだよ
売るんだよ
豚には冷たい泥を塗り
木の枠に仰向けに縛り付ける
豚はギイーと鳴く
カンボジアの子供たちは
「はは」と笑う
軽く笑う

かつてあったか
なかったか
芝草が凍る冬の休暇
さあねえ
どうしてかしらね
物好きなのよね
本の中の物語のように
わけは朧で
母方の祖父の家には
コーチンやチャボ
無花果の木の傍に
ある時には
山羊が繋がれていた

脂肪が焦げる匂いがする
勢いづいた音が跳ね
オーブンの熱い排気口から
ごく細い青い煙が揺らぎ出る

あたりまえだよ
食べるんだよ
テレビに映る日焼けた笑顔
後ろめたさなど知らない子供たち
記憶はくるりと入れ替わり
照葉樹の下の
彼らの流儀が
十二月
鮮やかに
私の過去の冬となる

荻悦子詩集「流体」より

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