荻悦子詩集より~「蝶と日時計」

蝶と日時計

文字や標が
刻まれて円状に並び
古い石盤は乾いている
正午前
中心部近くに
黒い蝶が遭難した

翅を広げ
翅をすり合わせ
あざとく見える
黒い蝶
その影はたよりなく
震えてうすく
正午の標までは届かない

日差しは動く
たしかに経過があり
尖った標は
長い年月の日差しに倦んで
先の方から溶けている
柔らかい石灰石は
表面に粉を浮かせている

傍らをただ過ぎるのではない
石の上
黒い蝶のたたんだ翅を
太陽のきつい光線が刺し貫く
そのようにして
存在する時間

指針の影に沿って
人が腕を伸ばす
腕の皮膚の内側に
時が溜められる

荻悦子詩集「流体」より

 370 total views,  1 views today

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です