荒地のアーモンド
明け方
荒れ地を伝って来た風が
木枠の窓を揺すった
光の筋が裂かれ
壁の上で目まぐるしく踊る
この風がアーモンドを落とすだろう
だが
その音は聞こえず
男の歌声をかすかに聞いた
呟くように息を継ぎ
タント ラ ヴィタ
若くない声だった
窓際のベッドに目覚め
見たいのは
アーモンドの花ざかりの木だと思った
人が幹を打ち
アーモンドの実が降って来る
池の水面をせき立てて
香草が縁取る岸辺に降りしきる
草の葉のビロードを叩き
白く痛く
足の速い雨
上方へ
葉の繁みの中へ音がかき消える
はげしい音に脅えた後
薄緑の林檎の実は
葉の下で暗い影になっている
石灰質の土地
アーモンドの幹を叩く人は
歌ったりはしない |
荻悦子詩集「流体」より
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