新加坡回忆录(36)ワールドカップで命拾い!?
記事の題名を見て「これは何のこっちゃ?」と思われた方も多いと思います。私がシンガポールに赴任したのは1983年でしたから、まだ、Jリーグは発足前でした。世界中で最も普及し、かつ人気のあるスポーツはサッカーでしたが、シンガポールでもサッカーは最も人気のあるスポーツのひとつです。
FIFA rankingは、現在162位と下位に留まっていますが、日本とは今回のW杯1次予選で対戦した際にはホーム、アウェーとも1点差で敗れはしたものの、相当日本を苦しめました。昨年開催された東南アジア選手権(タイガー杯)では力を発揮して優勝しています。
サッカーが最も人気があることには変わらないのですが、実は、自国のSリーグよりも英国のEnglish Premier League(EPL)の方が人気があります。バーでのTVは必ずと言っていいほど、EPLのゲーム(録画含む)が流れており、週末にはいわゆる4強(チェルシー、マンチェスター・ユナイテッド(MANU)、リバプール、アーセナル)を中心に5、6試合程度が放映されています。
さて、わが社の事務所の運転手たち(マレー人)もサッカーが大好きで、ワールドカップ開催中は自国の代表は出ていなくても、毎日テレビで観戦します。そのこと自体はよいのですが、ここで一つ大きな問題があります。夜中に夢中に試合を見て睡眠不足のまま朝出社するのです。
ある日、私は到着するお客を迎えるために高速を空港へと向かって車を飛ばしていました。勿論、運転は我が部のマレー人運転手です。お客を迎えた後はどのように接客しようかと考えを巡らせていたところ、車がどときどき右に左にと逸れていきます。ふと気が付いて、ドライバーを見ると居眠りをしているのです。
びっくりして、「Kasmidi!」と運転手の名前を呼び、「Stop! Stop!」と大声で叫びました。しかし、ドライバーは、「No Problem!」と言って止めようとしません。そして、また、車はフラフラしています。命あってのものだねと私は、後部座席から身を乗り出してハンドルをつかみ、これ以上出せないという大声で「Stop!」といい、やっとのことで、車を止めさせました。
「完全な居眠り運転じゃないか!」と叱り、運転を交代するよう話をしました。しかし、素直にOKしません。もしそんなことをして総務部に報告されたら首になるか、或いは減給されるかもしれないという思いからです。
私は、「わかった!会社には何も言わないから交代しろ!お前は俺を殺す気か!いや、このままだと二人とも死ぬことになるぞ!」と言って、やっと運転を交代して事なきを得ました。
あの時の恐怖は、忘れられません。
(蓬城 新)