「踊る人形」~コナン・ドイル

子供の頃、父親は旧国鉄に勤めており和歌山県新宮駅の二階にあった電信室勤務だった。この仕事には、夜間勤務(いわゆる「泊り」)があり、当番の日には夕方になると母がつくった弁当を駅まで届けるのが私の役目だった。弁当を手にして駅に行くと切符を買うことなく改札を通してもらえた。このことに対してある種の優越感のような妙な感情が子供心に芽生えたのを覚えている。

二階に上がると、父親が、「トンツー、トンツー」と右指でモールス信号を打っているのが見えた。最初はこれは何だと不思議に思えたが、遠くの人と連絡を取る手段だと聞いても分かったような分からないような。そして机の横には見たことのない機械があり、穴の開いたテープがカタカタと音を立てながら次々と流れていた。この時は将来自分もテレックスを利用するようになるとは夢にも思わなかった。

「これ、何なん?」と聞くと、父は、「これも遠くの人と連絡ができる機械や!ここ見てみ、一番端に1個だけ穴が空いたあるやろ!これは、英語の”e”を表してるんや!ABCをいろいろ順番に書くと英語の言葉になるんや」という。不思議な世界を見た感じがしたが、その後もこのことがずっと頭の片隅に残り、やがて小学校高学年くらいから英語というものに吸い寄せられていくことになる。

図書館でよく本を借りて読んだが、中でも一番好きだったのが「シャーロックホームズの冒険」の推理小説シリーズだった。大きな文字で書かれていた記憶があるので初めて読んだのは小学校低学年だったと思う。その中で最も夢中になったのが短編集の中のひとつ「踊る人形」だった。本の中に次のような挿絵が出てくる。


落書きかと思えるような人形の絵が実は暗号であり、絵についての予備知識が全くない状態からこの謎を見事に解いていく痛快さ!シャーロックホームズの天才的頭脳に感激し、この後もシリーズ物をすべて読破することになる。6年生になった時から、町の英語塾に通うようになりますます英語に惹かれていく。

やがて中学校に入ると、今度は、既に読んだシャーロックホームズシリーズを英語で読みたいと思うようになり、さらにはまり込んでいく。日本文学は正直あまり読んではいないが、コナン・ドイル、エラリー・クィーン、フレデリック・フォーサイスなどはよく読んだものだ。

20年近く前に、イギリスに旅行する機会があったが、ホームズが住んでいた(ことになっている)憧れのロンドンのベイカー街221B(現在はホームズ博物館)を訪れたのは言うまでもない。

前段の英語との出会いについて書いたのは、この小説の謎解きが英語という言葉に深く関係があるからだ。あまり詳しく書くとネタばれになるので書けないが、英語に詳しい人には更に面白いし、知らなくてもそのこと自体が興味深いので読みがいがある。

ということで、私の「おすすめのこの一冊!」は、
アーサー・コナン・ドイルの「踊る人形」です。

(八咫烏)

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