がんを考える⑦~妻の再入院

自分自身は1ケ月半後に再手術を控えていても、もう峠は超えていることが分かっていました。それより、退院後の妻の体調については入院中からずっと心配でした。妻は睡眠不足と食欲不振でかなり衰弱していました。私の入院中に一度外来で受診しており、その時に処方された薬を飲んだところ副作用が激しく、翌日一日中起きられなかったのです。

病院で診てもらったばかりだったのでしばらく様子を見たのですが、食べ物も飲み物もほとんど口を通らなくなり、みるみると衰弱していき、体重は7㎏も落ちてしまいました。もう限界と判断し、とりあえず徒歩で行ける近くの内科医で診てもらうと体力の回復が先決ということで点滴をしてくれました。お蔭で少し落ち着きましたが状態はあまり変わらず、その後は毎日、点滴を受けることになりました。

一週間ほど点滴を続けましたが、一向によくなる気配がなく、薬の副作用が思いのほか強かったので、つてを頼って漢方医に相談に行くことにしました。漢方薬は副作用が比較的少ないと言われているし、癌の手術後に西洋医学で回復できなくても東洋医学で回復できたケースが結構あるという話を聞いたので暫く続けることにしました。

ところが、妻の場合は漢方薬でも副作用が大きく出てしまうようなので、仕方なく量を半分にしてみましたが、副作用が少ない分効き目も少なくなるようでうまくいきません。薬のせいで体がだるくなって動けないと訴えても、医師は、そうなるように薬が設計されていると言って聞いてくれません。側で見ている私も、「だるくて動けないなら何もしなくていいから寝ていいればいいよ」と言ってみますが、本人は「寝ていて楽になるならいいけど、寝ても起きても苦しい」と言います。

薬を飲んでも食欲は戻らず睡眠不足は相変わらずという苦しい毎日が続き、1カ月ほどした時立ちくらみがするようになりました。手術を受けた病院に相談したところ、その場ですぐに入院してくださいと言われ、取るものもとりあえず再度、緊急入院することになりました。吐き気や立ちくらみがしょっちゅうするようになると自宅では何ともしようがありません。その点、入院していればすぐに手当てができるので安心です。

私自身が退院して1週間ほどは、家内も私も普通に歩ける状態ではなかったので、朝夕各1時間のワンちゃんの散歩は代行業者にお願いしていました。2週間目からは、ゆっくりなら私が散歩できるようになりました。妻が再入院ということになったので、また一人と一匹の生活が始まりました。このところ、一カ月交代で私と妻がいなくなるのでワンちゃんも不思議に思っているようです。

妻の病状について、いろいろ検査をして調べてもらいましたが、腎臓がんの手術は完璧に成功しており、手術跡の癒着などの問題も一切なく、不安によるものであろうということでした。がん手術の後、手術が成功したにもかかわらず様々な不安に襲われることはままあるそうで、同病院には、そのための専門の医師も控えています。

妻は、長年健康そのものだった自分が突然がんを宣告されてまず大きなショックを受けたはずです。次に、早期発見で部分切除で切り抜けられる簡単な手術であればまだしも、腎臓全摘出ということで二度目のショックを受けました。今は、二つある腎臓の一つを全摘出しても大きな問題はなく生活に支障はないと常識のように言われていますが、執刀医の説明を受けたときの彼女の反応はやはり深刻なもので、すぐには決心できなかったところをみるとやはり不安を感じていたのです。

「腎臓がひとつになってしまって本当に大丈夫だろうか。手術はうまくいくのだろうか」という不安な気持ちは、やはり本人でなければわからないでしょう。幸いにも、骨や肺への転移はしていなかったと聞いて、その時ばかりは少し安心したようでしたが、全摘出手術への不安はきっと拭えていなかったのだろうと思います。

そして、それに加えて、心の支えになるべき私自身もがんに罹り、時をおかずして手術ということになったことで受けたショックは相当大きいものだったでしょう。表面上は冷静さを保っているように見えていましたが、妻の心の中は一種のパニック状態か、見えない大きな不安で占められていたのかもしれません。今となってはそれしか理由が考えられないのです。

我が家にとって、あまりにも重大なことが重なったために大きな不安に襲われたであろうことは容易に想像できます。しかし、手術は二人とも成功したし、元気になって退院したからには、もう不安は解消されたのではないかと私は思うのですが。しかし、現実には、そう簡単にはいかないようです。

結局、妻は、今回も9日間入院しました。入院してもすぐには症状が回復するというわけにはいかず、あれこれと治療をしていただくのに時間がかかりました。それでも少しづつ回復に向かい、最後の3日間は食欲も出てなんとか元気が出てきたように見えました。退院当日、迎えに行ったとき、お見舞いにきてくれた友人と元気に話す姿を見てもう大丈夫だなと思い胸をなでおろしたのでした。

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