がんを考える⑰~入院中の思わぬ出会い
今日は、ちょっと趣向を変えて、入院中に遭遇したエピソードをひとつ紹介したいと思います。
入院中は暇を持てあますことが多いものだ。内科の場合など気分の悪くなる病気の場合はベッドから動けないことが多く、他人と触れあうことはあまりないかもしれない。しかし、外科の場合は、患部を切るなどの手術が終わってしまえば、検査以外にすることがなく、時間の経過と共に傷が癒えるのを待つだけということになる。
私の場合、入院の翌日、午前中の手術が終わると、後は1時間ごとに検温と血圧測定があり、その日一日だけは食事も摂れず、栄養補給のための点滴のみが続いた。翌朝、点滴を取り外すとあとは、一度だけ看護師付き添いで歩く練習をして問題がなければ一人で自由に歩いていいと言われた。なるほど院内には、チューブの付いたポールを引っ張って歩いている人が多い。
病院には、「デイルーム」といって、ナースセンターの脇にちょっとしたスペースがあり、テーブルと椅子がいくつかおいてある。スタッフと患者が打ち合わせをしたり、見舞客と患者が面会する時などに利用される。また、患者がお茶を飲んだり本を読んだりしてもよく、無料の給湯やお茶のサービスもある。ベッドで寝てばかりいると気が滅入るのでたいていの患者はここを利用している。
手術が終わって、2日目だったろうか、暇を持てあましてデイルームに行ってみた。すると、一人の白髪の外国人が持ち込んだパソコンを熱心に見入っている。この病院は外国人もよく利用するとは聞いていたが、同じ病棟でこんな近くで会うとは思ってもいなかったが、気軽に声をかけてみた。「こんなところでも仕事ですか?」
すると、「自分の運営するホームページを見ているんです」と言って、画面をこちらに向けて見せてくれた。英語の文章と写真がアップされているのが見える。聞くと、彼はニュージーランド人で、もう20年にも亘って日本大学経済学部の教授をしているとのことだ。主に英語コミュニケーションを担当しているが、一方で映画製作者としての一面も持っており映像や写真にも造詣が深そうだ。
見ていたのは、彼のゼミのサイトだったが、いろいろ話していくうちに、彼は辞書などの書籍も出版しており教養の高い人物だということがわかった。自分のサイトを見せてくれた後、あなたはサイトを持っていないのかと聞くので、迷わず、新宮ネットを見せた。サイトのコンセプトや掲載内容について説明するといろいろ興味深く見てくれた。
聞くと、彼は、日本の古文書に興味があるようでたまにあちこち訪問するらしい。新宮に博物館はあるかと聞かれたので、博物館はないが、地元出身で有名な作家である佐藤春夫館というのがあって、そこには彼にまつわる文書などが保管されているし、なにより、少し前に熊野古道が世界遺産に登録されたこともあって、最近は外国人観光客も増えてきていると説明した。
すると、将来もし私が新宮を訪問することがあったら案内してくれるかというので、喜んで案内するし、もし自分が何か事情で帰省出来ないときは友人に依頼することもできると言ってやると喜んでいた。佐藤春夫や中上健次のことなど少し説明すると、さらに突っ込んでいろいろと聞いてくるところがいかにも大学教授らしい。
名刺を交換して別れたが、またいつか会えるといいなと思った。ひとつだけ心残りは、新宮ネットを見せた時彼は、英語バージョンはないのと聞いてきたことだ。思わず「Not yet!」と答えたが、もし、英語バージョンを作っていたらもっと詳しく見てくれたのにと残念に思った。外国人にも見てもらえるようにするには将来、英語バージョンも考えなければいけないかもしれない。
とまあ、こんなこともあり、入院もたまには悪くないかと思った次第でした。
(日本語)