がんを考える㉖~がんと飲酒の関係
がんを患うとお酒は一切飲めなくなるのでしょうか。がんに限らず病気になったことをきっかけにしてお酒をやめられるならそれに越したことはない。しかし、お酒をささやかな楽しみにしている人にとって、全く飲めなくなるというのは闘病への意欲まで奪ってしまうような気がする。
以前、メタボ解消のために少しダイエットをしたことがある。健康管理の基本は、食事療法と適度な運動である。毎日の摂取カロリーに関心を持ち、食べ過ぎにならないようにすることだ。この時に、飲酒まで我慢すると続かないので、酒のカロリーを含めてトータルを計算し、晩酌をする代わりに夕食のごはんを抜いたことがあるが、体重コントロールはできた。
今年、がんの手術に続いて大腸ポリープの切除手術を受けたが、その間、何日間は否応なしに禁酒せざるを得なかった。病院から言われたことを一応きっちりと守った上で、後で執刀医に聞いてみたところ、手術後一定期間が終われば、さほど気にすることはないと言われた。病気の種類によるが、何でもかんでも禁酒ということではなく、その都度医師に相談すればよい。
基本的に知っておくべきことは、アルコールは体内でアルコール脱水素酵素によって、アセトアルデヒドに分解される。さらに、アセトアルデヒドは、肝臓内でアルデヒド脱水素酵素により酢酸に分解され、最終的に水と二酸化炭素になって体外に排出される。ところが、この分解酵素の力は、人によって強さが異なる。酵素の力が弱く、あるいは能力以上にアルコールを過剰に摂取して、アルコールやアセトアルデヒドのまま長く体内に残ってしまうことはよくない。
実は、アルコールそのものや分解されたアセトアルデヒドには発がん性がある。そのため、これらが長く体内に残ってしまうと、発がんリスクが上昇すると言われている。このようなことから、新たながん予防や再発予防のためには、お酒とのつきあい方に注意が必要なのだ。
がん患者には、酒を飲むべきではない時期がある。それは抗がん剤治療中あるいはその前後だ。抗がん剤は一人ひとりの患者の状態にあわせて計算された量が処方されている。しかし、こうしたオーダーメードの抗がん剤治療中や治療後に酒を飲むと、薬の効果を過剰に強めたり、弱めたりすることがある。そのため、過剰な副作用が発生する怖れや、期待する治療効果を得ることが難しくなる可能性があるので注意が必要だ。
飲んでもよいと言われた場合でも、治療後や休薬中、薬の成分が体に残っている場合があるので注意が必要だ。酒を楽しむなら、必ず主治医に相談して飲酒の可否や開始時期、適量を確認しよう。
喫煙や飲酒の習慣はさまざまながんの原因になるが、一度がんになった後に別のがんを発症させる危険性も高めると指摘されている。大阪府立成人病センターの研究によると、10年以内に別のがんを発症するリスクは、肺や食道、口腔、膵臓などのがんを発症した人については、喫煙も飲酒もしない場合に比べて、タバコを1日20本以上吸うと1.8倍、酒を1日2合以上飲むと2.4倍高くなり、喫煙・飲酒の両方がそろうと5倍に跳ね上がるという結果が出ている。
がん予防・検診研究センターの「日本人のためのがん予防法」によると、ある程度の量の飲酒は大腸がんをはじめとしたがんのリスクを上げる一方で、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げる効果があることから、お酒を楽しむ場合には「節度のある飲酒が大切」だとしている。そして2015年版パンフレットによるとその目安は、「1日あたりのアルコール量約23g」で、「週150g程度の量にとどめる」とされている。
アルコール量とは、飲酒量そのものではなく、お酒に含まれているアルコール量を指している。アルコール量約23gは、日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度に相当するという。
酒は百薬の長。ストレスを解消できるし、明日への力も湧いてくる。人生は楽しむべきもの。飲めない人、飲まないと決めた人は大変結構だが、私を含めてどうしても晩酌を楽しみたい人は、主治医と相談しながら節度を守って楽しみましょう。