がんを考える51~乳がん(再発リスク1)

2016年4月ごろ妻が乳がんの宣告を受けたとき、担当医の説明の中に耳慣れない専門用語がたくさん出て来て、正直訳がわからなかった。私は、言葉のひとつひとつについて、自分なりの言葉で「それは、こういうことですか?」「こういう解釈でいいのでしょうか?」と確認しながら聞いていった。

それ以来、帰宅してから、初めて聞く言葉についていちから調べることの繰り返しだった。本を読んだり、ネットで調べたりで少しづつ理解ができるようになってきた。ただ、ネット上の情報もどこまで正しいのかわからないので、疑問に思ったことは担当医に確認することでそれなりに知識は増えていったと思う。

ただ、担当医から聞いた手術前の説明や本で読んだ内容の一部(下記のサブタイプ分類など)にどうしてもわからないことがあったのだが、病理検査の結果を聞いたときに、その意味がやっと分かった。知らずに済めばこんないいことはないが、がん患者が多いことを考えるとやはり正しい知識はできるだけ持つべきだと思うのである。

今回は、再発のリスクについて考えてみたい。乳がんも、他のがんと同様、再発のリスクがある。しかも、多くのがんでは「初回治療から5年間」に再発しなければひとまず完治とみなされるのに対し、乳がんでは「10年間」は様子を見る必要があるといわれ、手術を受けた後も長い間、油断はできない。

一度、乳がんに罹るとだれしも再発リスクはあるが、特に「発見時のステージ」と、「サブタイプ」によって再発のしやすさが変わってくる。

がんの再発には、元の病巣と同じ場所に現れる「局所再発」と、離れた部位に現れる「遠隔転移」がある。どちらも、初回の手術で取りきれなかったがん細胞が成長して再び姿を現したものだ。

多くのがんでは、初回治療後5年たてば再発のリスクはほぼ0に近くなるため、経過観察する期間も通常は5年間となっている。しかし乳がんでは、5年後、10年後でも再発するケースがあるので、初回治療から10年間は定期的にフォローアップ検診を受ける必要がある。逆にいえば、乳がんはそれほど進行がゆっくりなものもあるということだ。

サブタイプ別・乳がんの再発リスク

同じ乳がんでも、タイプによって再発リスクの高さや、再発しやすい時期などが異なる。以下は、乳がんのサブタイプ分類といわれるものだ。

乳がんのサブタイプ分類
サブタイプ分類 特徴
ルミナルA型 女性ホルモンにより増殖する
HER2陰性
がんの増殖スピードが遅い
ルミナルB型(HER2陰性) 女性ホルモンにより増殖する
HER2陰性
がんの増殖スピードが速い
ルミナルB型(HER2陽性) 女性ホルモンにより増殖する
HER2陽性
がんの増殖スピードが速い
HER2陽性 女性ホルモンにより増殖しない
HER2陽性
がんの増殖スピードが速い
トリプルネガティブ 女性ホルモンにより増殖しない
HER2陰性

乳がんの治療では、サブタイプ分類が非常に重要になる。エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンの影響で増殖するタイプかどうか、またHER2というタンパクが多く発現するタイプかどうかなどによって、使うべき薬も変わってくるからである。

また、サブタイプ分類によって再発のリスクも変わってくる。中でも「HER2陽性型」や「トリプルネガティブ型」は、進行が速いため、術後2年以内の再発が多い点が特徴だ。一方、「ルミナルA型」や「ルミナルB型」は、他の2つに比べると進行がゆるやかなため、術後5年以降の再発率が高い傾向にある。

下記は、サブタイプ別の「無再発生存率」を表したものである。初回治療を受けた患者のうち、再発せずに生存している人の割合を示している。

乳がんのサブタイプ別の無再発生存率
サブタイプ分類 無再発生存率(5年) 無再発生存率(10年)
ルミナルA型 88.4% 83.1%
ルミナルB型(HER2陽性) 69.1% 69.1%
HER2陽性 67.2% 67.2%
トリプルネガティブ 74.3% 72.4%
<大阪労災病院「乳癌治療成績(2014年)」より>

女性ホルモンの受容体が陽性、かつHER2が陰性の「ルミナルA型」は、全体の中でもっとも生存率が高いタイプでである。ただし進行が遅いだけに、5年後以降に再発する可能性が比較的高く、この表でも術後5~10年間に再発した患者が一定数いたことがうかがえる。

~つづく~

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です