森本剛史の世界紀行~⑭素晴らしきネイチャー・ワールド エコツアー発祥の地 コスタリカ

変化に富んだ自然が広がるコスタリカ。九州を少し大きくしたほどの面積の国に、50万種を超える生物種が生息している。それは全地球上の生物のなんと5%に匹敵するという。

現在、自然と共存することを眼目に置いたエコツーリズムが人気である。コスタリカは、そのエコツーリズムの発祥の地として知られ、美しいネイチャーワールド を求めて全世界から観光客が集まってくる。

ジャングル上空を時速70kmで滑走 モンテベルデのスカイ・キャノピー

一気に鳥の目になった。風がシュッと耳元を駆け抜けてゆく。眼下に広がる熱帯雨林。下方から猿の鳴き声が聞こえてくる。右手前方、太平洋に突き出たニコヤ半島が見えた。ジャングル上に張られたロープ。両手で思いっきり握った滑車(プリー)は時速70kmで滑っていった。緊張と恐怖。そして快感。強い風で左右に体が揺れ、ヘルメットがロープと接触しコツコツという音がする。わずか20秒で450m先のジャングルに設置されたプラットホームに到着した。冷や汗をかく暇もなかった。

コスタリカの首都サンホセから車で3時間のところに位置するモンテベルデ・クラウドフォレスト自然保護区。この自然保護区で今人気を呼んでいるのが、このスカイ・キャノピーツアーである。ジャングルの上に張り巡らされたロープをハーネスで繋がれた命綱1本で滑ってくるという、レインジャー部隊さながらのワイルドなアクティビティだ。

私たちのツアー人数は11人にガイドが3名。アメリカ人が多く、年齢は中学生から60代の男女混合チームだ。

午前9時半、全員に命綱が巻かれ、ヘルメットを渡された。まずジャングルを10分ほど歩き、最初のプラットホームへ。ここで各自に滑車を渡された。

インストラクターが「滑るときは、足を組み上方に上げること。頭は下に垂らすこと」と3分間の説明。この種のアクティビティに参加するにあたっては事前に予行練習のようなものがあるのが普通だが、我々参加者はただ聞いているだけでシミュレーションも何もなしで本番突入となった。

1本目のプラットホームは25mの長さ。みんな緊張の面持ちだ。ガイドによって淡々と体とロープがハーネスで結わえられた。間隔をあけて一人づつ滑る。いよいよ私の番。「バーモス(レッツゴー)」と背中を押されて宙に舞った。下に広がるジャングルを見る余裕もなかった。

このツアーでは、11本の張り巡られたロープを2時間半かけて回ってくる。最初は入門編でだんだんと難易度が増してくるという仕掛けをしている。つまり長さと高さ。その長さは一番長いもので770m、所要時間は40秒。一番高所に張られたロープは谷底までなんと130m!そこを時速70kmで突っ切るのだ。

ジャングル上空を鳥と同じ視線で見渡せる快感。下界を見下ろし大声で叫べばかなりのストレス解消になる。11本のロープを無事滑りきった11人の間には「戦友」のような固い連帯感が生まれていた。

ガイドに聞くと、体験者は8歳から90歳までと幅が広く、参加者の1%ぐらいが最初のプラットホームで恐怖のあまり断念するという。参加者は多いときで1日250名。モンテベルデでは、旅行者の挨拶が「キャノピーに乗ったかい?」である。

エコツーリズムのシンボル的存在~モンテベルデ自然保護区
首都サンホセからパン・アメリカン・ハイウェーを快適に2時間走ると、道路は未舗装となり、あちこちに穴ぼこが見える。砂塵の中、ドライバーは右に左にハンドルを切りながら中米版「いろは坂」を登っていく。ドライバーはファン・カストロさん。西郷隆盛によく似たコスタリカ人で、日本語は伊豆下田の「わさび漬け」工場で学んだという。

「コスタリカは九州と四国を合わせたほどの小国ですが、国内には50万以上の動物種があります。これはね、地球上の動物種の5%に匹敵するんですよ。鳥類は、アメリカ、カナダ、メキシコを合わせた数よりも多い850種が存在していますし、植物も1万2000種もあるんですよ」とカストロさん。

このような豊かな自然を背景に、1980年代半ばからコスタリカでは自然を守りながら自然を観光資源として結びつけるというエコツーリズムを進めている。自然保護と開発を両立させる考え方なのである。

「国土の4分の1を国立公園や自然保護区として乱開発を禁止しています。そのシンボル的存在が、今私たちが向かっているモンテベルデ・クラウドフォレスト自然保護区は標高800mから1300mに位置しています」

2時間のダート道を登ってやっと目的地に到着。広い空、太平洋まで広がる緑のジャングルというダイナミックな光景に感動した。

このモンテベルデの歴史はそれほど古くはない。1951年、徴兵を拒否した44人のアメリカ人クエーカー教徒が理想の土地を求めて、この地に移住したことからモンテベルデの歴史が始まった。クエーカー教徒は争いを嫌い、自然に近い環境で生活をすることを信条としている。彼らは土地を耕し、牛を飼いチーズやハムを生産していった。酪農を中心とした農業を定着する一方、協同組合を作り環境保全に力を注いだ。その結果が現在のエコツアーの原点となっている。道路が未舗装なのも観光客が大挙して押しかけてこないだろう、という村人たちの配慮からだという。

ここは国立公園ではなく、民間のナショナルトラストの管理による自然保護区で、運営は入場料と寄付金でまかなわれている。保護面積は1万h以上もあり、現在もなお買い足しが行われ面積が増えている。

モンテベルデではバラエティに富んだランの種類、動物ではナマケモノ、ホエザル,ハナグマなどを見ることができる。そういえばナマケモノはホテル近くの邸宅の庭で見ることができた。

鳥類はハチドリ、サンショクキムネオオハシ、なんと言ってもシンボル的存在はケツァールだろう。手塚治虫原作の「火の鳥」のモデルとなった幻の鳥だ。鳩ほどの大きさのカラフルな鳥で、尾の長さは1m以上もある。好物はリトルアボガドの実で、2時間後に種だけを吐き出すという。

カストロさんとスカイウォークと呼ばれる遊歩道を歩いていると、森の中から突然「ホーホー」とフクロウのような太い声が聞こえてきた。ケツァールだ。カメラを構え待ったが、その美しい姿を現すことはなかった。

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