十男17歳 高2 “恋人”を奪われた

「女の子の人気投票」が高校2年時、男子の保健体育の自習時間に行われた。クラスの塩道哲也が『お気に入りの女子』総選挙を提案したのだ。塩道は「あしたのジョー」の力石徹のような奴で顔も体も声もデカい、押しもある。クラスはすぐまとまる。中島四郎、山中富雄、山下勤など率先して選挙管理委員になる。選考対象は同学年全クラスの女子。

ボクは「三浦法子(のりこ)さん」という人に投票した。「スーちゃん」こと田中好子さんに似ており、静かな物腰で日本的、ボクは好感をもっていた。

第1回選挙、総投票数約20票。投・開票は黒板に「正」の字。結果は日頃の評判通りだった

1位 富永二恵 7票

2位 斎藤京子 5票

3位 工藤久恵 4票 ……

上位は頭も良いし、美人だ。私の三浦票は1票だけ、最下位だった。

塩道は「おい、誰や!貴重な1票を三浦ごときに入れとるのは」と笑った。ボクは黙っていた。

ボクは次回もその次も投票した。が、いつも1票だった。だが5回目くらいの選挙から様子が変わった。三浦票が1票、また1票と増えてきたのだ。ついにある日、あろうことか三浦法子がトップになったのだ!。

ボクは落胆した。自分一人のものであった彼女がヒロインに上り詰め、はるか遠い存在になってしまったのだ(ボクとの距離は初めから遠かったのだが)。

「まぁいいや、ボクの見る目が正しかったのだ」と自分を慰め言いきかせた。「三浦法子」は以降、トップや2位を守り続けた。

卒業して数年後、「高校卒業者名簿」が届き、ボクはクラスの卒業年度を見て仰天した。

「塩道(旧姓三浦)法子」とあった。夫はあの明日のジョーの「塩道」ではないか!

「貴重な1票を」とホザいた(つい、あしからず)塩道じゃないか!

ともあれ十男ボクの初めての〝失恋〟だった。 (一部仮名にしました)

吉原和文

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