ヤタガラスのお気楽闘病記8~恐怖の叫び

翌日、昼の間は何事もなく過ぎていった。夕食も終えて同室の4人は、各自思い思いに過ごしており例によって話もしない。私も何もすることがなく、うつらうつらとしていたら、「うーん。あー、よー」という奇妙な呻き声が聞こえてきた。恐怖映画で聞くような、震えるような弱々しい、気味が悪い叫び声だ。

身体のどこかに痛みを感じて我慢できないのだろうか。長い時間ベッドに横になっていてその辛さに耐えられなくているのかもしれない。ただその声は少しずつ大きくなって、目の前にあるナースセンターまでも聞こえるほどになってきた。

ナースコールを押すようでもないし看護師さんも誰も様子を見に来ないところを見ると、いつものことと放っているのか。困ったことになったなと思ったが、一番最後に入室してきた自分がこのことに文句言うのも気がひけるしずっと我慢した。

仕切りのカーテンもずっと開けずに何も見ず我慢していたが、少しして部屋の入口がざわざわしたのでそっと覗いてみると、車椅子に乗った患者さんが二人いる。当然ながら他の部屋から来ているのだ。小声で話をするならまだしも、何と、叫び声の正体はその患者さんの一人だったのだ。

何と言っているのか注意して耳をすましてみると、「お前が死ねー。死ねよー。よー。うーん」と繰り返している。少しやんだかと思うとまた「お前が死ねよー」と繰り返される。患者同士の喧嘩のようにも思えるが、言われている一人は同部屋4人のうちの1人だが、こちらは黙っているようだ。

不思議だったのは、普通ならこういう場合、看護師さんが来てなだめるとか諫めるとかの行動があるはずだ。現に同部屋にいる私に大きな迷惑がかかっているのだから。ところが誰も来ない。知らんぷりを決め込んでいるようなのだ。

もし、明日もこの事態が続くようなら、気が散ってパソコンなど使えなくなるので、文句を言ってやろうと思っていたら、驚いたことに、消灯時間になると、他の二人の患者が合い続いて部屋に帰ってきた。一方、叫んでいた患者はいつの間にかいなくなっている。え、待てよ。ということは、あの叫び声が聞こえ続けていた時間、二人は別の部屋にいたのか。このことがあるから別の部屋に退避していたと考えるのは穿ち過ぎだろうか。何故かと言うとその二人の患者は病院の家族なので融通を利かせたのではないかとさえ思える。

もしそうだとしたら、とんでもない話だ。頭の病気だから少しおかしくなって、幻影をみているのだろう思うかもしれないが絶対にそうではない!これは現実に起こったことなのだ。翌日、若い療法士の一人とリハビリで廊下を歩いているときに、この出来事を話してみたけれど、何も知らないという。

その時の奇妙な叫び声は退院した今も残っている・・・。

ヤタガラス

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