私のふるさと新宮市～歴史1 神武東征（古事記）

私が生まれ育ったのは、紀伊半島の最南端にほど近い和歌山県新宮市。全国に有名観光地やメジャーな市町村が数ある中で、あまり知られていない人口27,400人（2022年1月現在）の小さな町である。2004年7月、熊野三山を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」が日本で12番目の世界遺産に登録されて以来、少しは知られるようになり観光客は増えているようだ。

しかし、町の中心にある商店街は今シャッターが目立つようになってしまっており、筆者が中学・高校生のころの賑わいはもはや見られない。全国の他の多くの町と同様に少子化による人口減が一番の原因である。現状を見ると寂しい気持になるが、過去の歴史を辿ると見るべきものがたくさんあるので紹介したい。まずは熊野の歴史から始めよう。

熊野三山（熊野速玉大社、熊野那智大社、熊野本宮大社(現在は田辺市）のある新宮市は古代から熊野の中心である。新宮の歴史を語るには、やはり古事記から始めなければならないだろう。そして、江戸時代に果たした大きな役割も見逃すことはできない。さあ、みなさんを未知の世界に誘うことにしよう。

歴史　その1　神武東征（古事記より）
神倭伊波礼毘古命（かむやまといわれびこのみこと）は、兄の五瀬命（いつせのみこと）と高千穂宮で相談して、天下を治めるのによい所を求めて東に行こうと日向を出発した。豊国（豊前豊後）で土人の宇沙都比古（うさつひこ）、宇沙都比売（うさつひめ）から饗応を受け、筑紫の岡田宮に1年、阿岐（安芸）の多祁理の宮で7年、吉備の高島宮で8年を過ごし、速吸門（はやすいのと）で槁根津比古（さおねつひこ）に会い海路を案内させ、浪速の渡を経て、白肩津（東大阪市）に上陸し、大和へ入ろうとした。

しかし、ここで登美の那賀須泥毘古（ながすねびこ）の抵抗にあい、五瀬命は「日の神の御子として、日に向かって戦うのはよくない」ので、太陽を背にして戦おうと、南方から廻り込むことにした。その途中、五瀬命は紀国の男之水門（おのみなと）で命を落とした。一行が紀伊半島南部の熊野村に至った時、大きな熊が現れたためその霊力に打たれ、たちまち気力を失って倒れる。この時、熊野の高倉下（たかくらじ）が天神から降された横刀を彼らに献じたことから、熊野山の荒ぶる神を斬り倒し、一行は元気を回復した。

高倉下が横刀を賜ったいきさつを「私の夢に、天照大神、高木の神が、建御雷神（たけみかづちのかみ）を召んで助力を求めたが、自らが出向かずとも、横刀を高倉下の倉に降すので、それを汝が天つ神の御子に献じよと教えがあった」と答えた。一行は、高木大神のつかわした八咫烏(やたがらす)の道案内で、荒ぶる神の多い奥地を通り、大和吉野河の河尻へ到着した。その時、魚取りの贄持之子（にえもつのこ）、尾の生る井氷鹿（いひか）、厳を押し分けて出てきた石押分之子（いはおしわくのこ）らに会い、宇陀（大和国宇陀郡）に到着した。

ここから大和平定の戦が始まる。まず宇陀の兄宇迦斯（えうかし）、弟宇迦斯（おとうかし）との戦では、八咫烏を使いに立てるなどしたが、弟の内応によって兄の計略を知り、道臣命（みちおみのみこと）と大久米命（おおくめのみこと）に殺させた。忍坂（おさか）では、土雲の八十健（つちぐものやそたける）が大きな室にこもっていたが、八十膳夫（大勢の料理人）に刀を帯びさせ、八十健を安心させておき一気に斬り殺した。磯城（奈良盆地南部）の首長である兄師木（えしき）、弟師木（おとしき）をも苦戦の末に従えた。

邇芸速日命（にぎはやひのみこと）は天津瑞（あまつしるし）を献上して降伏した。彼は、登美毘古（那賀須泥比古）の妹である登毘夜毘売（とみやびめ）を妻とし、宇摩志麻遅命（うましまじのみこと）を生んでいる。神武天皇は、大和の荒ぶる神どもを平定し、畝火の白檮原宮（かしはらのみや）で天下を治めた。

以上が、「古事記」の神武東征のあらましである。神武一行は国々を巡り、多くの臣下を味方につけながら荒ぶる神を平定していったのである。

（出典：山本殖生著「熊野八咫烏」）因みに、左記の山本殖生氏は筆者の高校の同級生。

この神話に基づいて、筆者は、20年前からネット活動においてハンドルネーム「八咫烏（ヤタガラス）」を名乗っている。その心は「才能のある人を進むべき道へ案内する」ことである。