熊野の民話~「山の神」

この奥に道湯川の集落跡にのぼる道がある。五本松へ上って、下っていく道やけどね。
そこで山仕事しとった。重ちゃんやけどね。多禰重次(たねしげじ)というんや、同級生でね。
いまは、もう死んでしまいました。

そしたら、青い着物着た人二人、赤い着物着た人一人、三人に出会うて、青い着物着た人も女や、赤い着物着た人も女や。
赤い着物の人、「ここから向こういったらあかんのえ」って、通してくれんのや。

あとからみてもろうたわけや。そや、祈祷師にな。そしたら「青い着物着とった人は、たしかにおまはんに害をする人や、害を与えるものだったんや」

赤い着物着とった女の人が、けっきょく山の神さんだった。青い人らのいうようにしたら、あの人はどこへ連れていかれたやら、どうなったかわからんとこだった。もう四〇年くらい前のことや。

(出典:「みちとおと」~熊野の伝説より)

イラスト:ひろのみずえ
採話地/和歌山県田辺市中辺路町野中
『熊野・中辺路の民話』1980年 民話と文芸の会 より

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