熊野の民話~「十丈峠のダル」

ダルは飢えた人のあるところで会うという。

おばやんのいとこね、富里から今の十丈へ来たらね、腹へったゆうで、
「めし食え」ちゅうて、やったら、わっぱへ四杯も食ったと。

わっぱゆうたらおひつみたいなものやな。

三合は入るな。それ四杯より食うた。
「もういいのか」ゆうたら、
「おら、ひもじゅうて動けん」て、ゆうた。

そこでまた別の人が、ご飯炊いて持って行ったですよ。
それでもなおらんです。

やっぱりこのへんにダルっていうておるんだけど、
餓死した人やなんか、みんなこういう状態になるんだろ、
ああいうとこで。

餓死した人のところにダルは寄ってくるんやろ。
ダルに憑かれたら、ごはん粒を残しておいたのを、
今ゆうたようにお腹がすいたりしたら、ごはん食べたらよい。

(出典:「みちとおと」~熊野の伝説より)

イラスト:ひろのみずえ
(採話地/和歌山県田辺市中辺路町福定)
『熊野・中辺路の民話』1980年 民話と文学の会 より

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です