和歌山県の民話・伝説②安珍と清姫

anchin-kiyohime1むかし、奥州白河に安珍という若い坊さんがいました。安珍は、毎年熊野権現へお参りにきていました。ある年のこと、奥州からはるばるやってきたのですが、あいにく潮見峠を下ったあたりで日が暮れてしまいました。どこかで一晩とめてもらおうと探した安珍は、都合よく一軒の家を見つけました。そこで安珍が一夜の宿を頼むと、快く引き受けてくれたのでした。

そこは、庄司清次という人の家で、清姫というとても美しい娘がいました。花にたとえると白百合というほど美しい娘でしたが、清姫は美貌だけではなくよく気がつく娘で、何やかやと安珍の世話をやいたのでした。

その夜のこと、すやすやと眠っていた安珍は誰かに起こされました。目を開けて安珍はびっくり、そこには清姫がすわっており、「安珍さんを一目見て好きになりました。どうか私をあなたのお嫁さんにしてください」と言うではありませんか。「そういわれても私はまだ修業の身、願い事があって熊野権現様へお参りする途中で・・・」と断りましたが清姫は聞きません。

困り果てた安珍は、「あなたの気持ちはよくわかりました。私が権現様にお参りするのに3日かかります。もし、無事にお参りができましたらここに帰ってきますから待っていてください」といって、翌朝、逃げるようにして熊野権現に向かいました。

「もうすぐ安珍さまのお嫁さんになれる」と朝が来ても、夜が来てもうれしくてそわそわしながら待っていた清姫ですが、約束の日がきても安珍は現れません。心配のあまり道に出て、通りがかりの旅の人に聞いてみました。

「その人やったら、私よりずっと先を歩いていましたよ。えらい急いではったみたいやなあ」
それを聞いた清姫は、しばらくぼうと立ち尽くしていましたが、きっと顔をあげると、飛ぶように走り出して安珍のあとを追い始めました。走っても走っても安珍の姿は見えません。

ふと見ると目の前に高い杉の木があったので、その木に登って安珍を探したところ、ずっと向こうに急ぎ足で行く安珍の姿が見えました。清姫はくやしくてくやしくて、木の上でぎりぎりと身をよじりました。すると、何とその力で木の枝から幹までよじれてしまったのです。この木は「清姫のねじ木」といって今でも潮見峠に立っています。

日高川のあたりまで来た安珍が何気なくふと振り返ったところ、ものすごい形相で追いかけてくる清姫が見えました。「わあ、こりゃ大変、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・」念仏を唱えながら、安珍は渡し船に飛び乗り、「後から来る女は化け物だからどんなことがあっても船へは乗せないでくれ」と頼みました。

向こう岸について船から飛び降りた安珍は、近くの道成寺に逃げ込み寺に人に助けを求めました。「それはおこまりでしょう」と寺の人は釣鐘を下してくれて、その中に隠れることにしました。

清姫は、日高川の岸辺に立って何度も船を呼びましたが、船が来てくれません。仕方なく清姫は川へ飛び込みました。すると、清姫の体はみるみるうちに大蛇の姿に変わり、あっという間に川を渡り、道成寺に登ると火を噴きながら安珍を探し回りました。

釣鐘の中でじっと身を潜めていた安珍でしたが、運の悪いことに、草鞋の端が少しだけ鐘の外へ出ていました。それを見つけた大蛇・清姫は釣鐘をぐるぐると7回半も巻き込んでゴォ-と火を噴きつけました。釣鐘は真っ赤になって溶けてしまい、中の安珍も真っ黒焦げになってしまいました。

清姫は、その日から、ぷっつり姿を消してしまい誰もその姿を見たものはおりません。その後、道成寺では、何度も釣鐘を作りなおしたのですがその度に壊れてしまったそうです。だから、今でも道成寺には釣鐘がありません。清姫の恨みがこもっているのでしょう。

(八咫烏)

和歌山県の民話・伝説②安珍と清姫” に対して5件のコメントがあります。

  1. おっちゃん より:

    有名な話らしくて、ネット検索すると、多数ひかかりました。
    市川雷蔵&若尾文子、大スターが共演して、映画「 安珍と清姫 」にも、なってるんですね。
    女性の執念深い怖さが、よく表現されている物語だと思います。
    日本画(ネットで多数有り。)も素敵ですね!
    能や歌舞伎でも有名な安珍清姫伝説。この伝説の舞台となっているのが、御坊市の近くの道成寺なんて、知らなかった~。

    1. よっちん より:

      安珍と清姫の話、「娘道成寺」で有名ですね。田辺から本宮に向かう途中に清姫が身を投げたという淵があり、その近くに清姫茶屋という食事処があります。
      私は何度か寄ったことがありますが、美味しかったです。

      1. おっちゃん より:

        そう云えば、本宮から田辺へ行く途中で「清姫」という看板、何十回も見たこと有ります。あれが、そうなんですか? 次回は必ず、立ち寄ってみたいものです。

        1. よっちん より:

          そうです。橋の手前に清姫茶屋の看板が出ています。木曜日と第4水曜日が休みのようです。

          http://www2.w-shokokai.or.jp/nakahechi/menber-page/kiyohimechaya.html

  2. おっちゃん より:

    以前は、何となく大阪に早く着きたい思いで、スルーしていました。次回、いつになるか分かりませんが、絶対、200% 立ち寄ります。情報ありがとうございます。

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